月中に存在すると当時の人々に考えられていた事物を網羅(もうら)して描いた鏡。亀形の鈕の右上には月桂樹(げっけいじゅ)(月に生える桂の木)、左上には右手に葉のついた果実を乗せた盤、左手に「大吉」の文字の入った札を持ち、衣を翻(ひるがえ)して飛ぶ仙女が描かれる。西王母の不老長生の桃の実を盗んだ嫦娥(じょうが)が月に逃れる
「嫦娥奔月(じょうがほんげつ)」の故事の表現と考えられる。左下には仙薬を搗(つ)く玉兎(ぎょくと)、右下には跳びはねる蟾蜍(せんじょ)がいる。
中国古代神話では、玉兎・蟾蜍は共に月中に住むとされる。全てが月に係わる図像である。外区には、 霊芝雲と花に戯れる蝶が交互に描かれる。
民間の故事が鏡の文様となることは、唐も最盛期を過ぎるころからしばしば認められるようになる。これに呼応して鏡背の文様もすべてを一方向からのみ見るスタイルのものに変化して行き、文様が絵
画表現的なものに変質していく契機をもたらすこととなった。
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