太い界圏(かいけん)帯で区切られた環状のスペースに内外二重の銘帯を入れた鏡。銘は、過去に異体字銘(いたいじめい)鏡な
どと呼ばれたほどの独自の篆書(てんしょ)体で書かれている。省略された文字が極めて多く、これのみでは文意が通じないが、鏡の銘から補うことができる。
長い中国の鏡の歴史の中でも、銘文を主文様とする鏡は極めて少なく、唐以前では連弧文(れんこもん)銘帯鏡や小型の単圏(たんけん)銘帯鏡などの前1世紀の銘帯鏡群のみと言える。
銘内容は、汨羅(べきら)に身を投じた屈原(くつげん)の故事で著名な「楚辞(そじ)」の内容に大変近縁のもので、君主に用い
られない失意の心境をうたっている。この種の鏡の製作工人が保持していた思想背景が、「楚辞」を 伝承したグループと大変近いことは興味深い。
日本では、弥生中期の前原(まえばら)市三雲南小路、飯塚市立岩(たていわ)堀田、春日市須玖岡本などの著名遺跡や神戸
市森北町遺跡などからも出土している。 |